第八回和歌の浦短歌賞にたくさんのご応募をいただきありがとうございました。
長く続いた新型コロナも、ようやくインフルエンザと同じ扱いとなり、日常を少しづつ取り戻し、お祭りなど各種イベントも再開され始めました。
今回は、スケールの大きな歌、境界を取り払うような歌を詠んだものが幾つか選ばれたことが興味深かったです。受け取る側の視点やモノサシが変われば、境界だと思っていたものは単なる思い込みだったと気づいたりするもので、異なる意見でもまずは受け止める余裕や、思いやりのある視点が、多様性をみとめる争いのないやさしい世界につながる。
小さなしあわせの歌、悲しみを抱きしめるような歌、おおらかな歌がうまれる短歌の世界はステキですね。
一般社団法人紀州文芸振興協会 理事長 松原 文
― 溝呂木やそや(大阪府)
■ 海を飼うねんという少年の言葉が生き生きと輝いています。
(藤原龍一郎審査員 選評)
■ いつかペットのように「海」を家で飼おうと考えている幼い子どもの斬新な発想に驚くとともに、ほんとうにそんなことができたらどんなにいいだろうかと自由で楽しい気分になれる。と同時に、現実的には不可能なことを無邪気に述べる子に対する切なさもある。「不老橋」が、これから長く生きていくことに対する思いを象徴していて、子どもの発言を奥深いものにしている。
(東直子審査員 選評)
■ 和歌の浦沿いを歩いてきて、子は海の美しさに魅入られたのかもしれない。自分のものにしてしまいたい衝動を正直に言葉にする子の屈託のなさが下の句にも溢れている。「不老橋」という固有名詞もうまく作用して、詠われた時間や場面をより広く深いものにしている。
(江戸雪審査員 選評)
― 佐藤一央(静岡県)
■ 海を隔ててという成語があるが、それを逆転させて、娘と児をつなぐ海と逆転させた発想が素晴らしい。
(藤原龍一郎審査員 選評)
― 坂上くも(茨城県)
■ 絵の具のように空と海の青い色が混じりあうイメージがうつくしく心地よい。上の句は、若山牧水の「白鳥は哀しからずや空の青海のあをに染(そ)まずただよふ」という歌を下敷きにしているのだろう。牧水の歌は、ひりひりするような孤独感が投影されているが、和歌山の海を背景にしたこの歌は、リラックスしていて明るくのびやかである。
(東直子審査員 選評)
― 雅雅(和歌山県)
■ 「いもうと」はもう居ないように感じた。そして「恋」だけがありありと思い出されることには説得力がある。下の句のハ行音の響きが哀しい。
(江戸雪審査員 選評)
― 外山雪(愛知県)
■ 海は境界ではないという逆転の発想に好感がもてる。和歌の浦の海の景色が浮かんでくる。
(藤原龍一郎審査員 選評)
― 川田裕加里(大阪府)
■ 海辺に立つ松の大木を想像する。地表に力強く這う根が、松のアイデンティティであるという把握は自然への畏敬を感じさせる。「松の唸り」が聞こえてきそうだ。
(江戸雪審査員 選評)
― 岡本千晶(東京都)
■ 和歌の浦の五百羅漢寺に仁王様の足型があり、その上に乗ると足腰が丈夫になるという名所があるそうだ。そのことを題材にししつつ、実際に仁王様がのっしのっしとその地を歩いている様子が浮かぶ。さらに対比として鶴立島に眠る鶴らの見る夢のイメージを重ね、メリハリある幻想的な一首に仕上がっている。
(東直子審査員 選評)
― オッドマン(神奈川県)
■ 不老橋のイメージにぴったりの一首。八十路の作者の健脚を讃えたい。
(藤原龍一郎審査員 選評)
― 山縣みさを(三重県)
■ 確かに人生には知らなくてもいいこと、知らない方がいいことがたくさんあるだろう。年齢を増すほどにその感慨は深まる気がする。方言を効果的に使った話し言葉が、そんな感慨を若い人に伝える年長者の雰囲気を醸し出している。「一三詣り」は、子どもが一三歳になったときにするお祝いのこと。思春期を迎えた子どもへの柔らかな教訓だったのだ。
(東直子審査員 選評)
― 秋田聡子(北海道)
■ 「笑顔が透き通る」という表現に、老齢の母の纏う儚さや作者の愛情を感じた。「日傘」で強い陽射しから母を庇っている様子も母娘の関係がよく表れている。
(江戸雪審査員 選評)
― 五感(山梨県)
■ 「蓬莱岩」は、ぽっかりと穴の空いた奇巌のこと。中国では仙人が住むとされるので、パワースポットとして訪ねてくる人もいるようだ。不定形の穴から見える世界はたしかに「空と海とを切り取」ることだろう。「飴色の空」は夕暮れ時のとけだすような、燃えるような空の色のことだろうか。「いびつなレンズ」が示唆的である。
(東直子審査員 選評)
― 玉木美企子(長野県)
■ 自習室という静寂の空間で、指で空想の波乗りをするという想像力のみずみずしさに共感する。
(藤原龍一郎審査員 選評)
― 佐藤遵子(大阪府)
■ 「星」が出てくるので夜の海だとおもった。海は空からわずかに降ってくる光にきらきらとしている。「はつ夏の星のかたまり」が、夏への期待のようで躍動する気持ちを表現している。
(江戸雪審査員 選評)