「和歌の浦短歌賞」江戸雪様インタビュー

~歌ができないときほど、作ろう。自分の体が感じたことを詠った、魂の叫びとしての短歌は、「青臭いまま」のあなたを待っています~

――歌誌「塔」で目覚ましい活躍を見せる江戸雪歌人。短歌を始めたきっかけは何でしたか?

 中学生になってすぐ「自分は何者なのだろう」という不安と畏れが湧き、ひとりで考えたことをノートに書き留めていました。心のなかのもやもやしたものを言葉にして書くと不安が少しだけ鎮まったようにおもえたからです。

 そのノートは10年以上続けましたが、誰かにみせようなどとは恥ずかしくて思ったこともありませんでした。ただ、その日にあったことや感じたことを言葉にすることの充足感は確かなものとなって根付いたのだとおもいます。やがて26歳のときに突然、短歌を作って作品をあるところで発表してみました。そのとき誰かに自分の短歌を読んでもらう喜びを知りました。それからずっと短歌を作っています。ですから、「短歌を始めたきっかけ」というと、漠然としていますが〈自分と言葉に出会った〉ということになるでしょうか。

 

――魂の声としての短歌ですね。具体的には江戸雪様はどんな短歌を作っていらっしゃいますか?

基本は日々の出来事や考えたことをなるべく小さく焦点をしぼって短歌にしています。ただ、作っているうちに全く違う世界に飛んだりすることもあります。一首の短歌はあくまでも言葉で作られた世界ですから、あれこれ作っているうちに自分でも驚くような歌ができたりしますが、それはそのまま残すようにしています。また、相聞歌は作り続けていたいと思っています。相聞歌を作っていると、新しい自分が見えたりしておもしろいです。

 

――江戸雪様は短歌を続けることで新しい自分を発見できるのですね。江戸雪様が短歌を作るにあたって心がけていることは何でしょう?

心のなかをじっくり見つめることも大切ですが、自分の身体が感じたことを最も大切に

しています。風が吹けばその温度や強さや匂いそして色や音などに五感を研ぎ澄ませていたいです。また、独りよがりにならないことです。自分を外から眺めてみること。技巧的には、なるべく平易な言葉を使うようにしています。

 

――江戸雪様は、今後どのような短歌人でありたいと思っていらっしゃいますか?

漠然とした言い方ですが、世の中やひとの流れの外に立っていたいです。もちろん、社会そのものを歌にしていくつもりですが、権力や嘘や束縛には背をむけ続けるつもりです。一言でいうと、「青くさい」まま自分に正直に、素朴な歌を詠える歌人でありたいですね。

 

――最後に、江戸雪歌人から「和歌の浦短歌賞」に向けて短歌を初めて作る方へメッセージをお願い致します。

短歌は31音に限られた短い詩型ですが、作り続けていると世界は無限に広がっていきます。ですから、31音を窮屈なものだとおもわず、わざわざ難しい言葉を使おうとせず、ありのままの自分の言葉で表現してみてください。そして、初めはできるだけ5・7・5・7・7の定型におさまるようにつくること。言葉を収斂することによって、自らの精神や想いも研ぎ澄まされていくとおもうのです。

 

――なるほど。短歌中・上級者へのメッセージもお願いします

「歌が出来ない」とおっしゃる方が時々おられますが、歌が出来ないときこそ作ってほしいです。詠うことがない、ということはありません。窓から外を眺めていると、空があり雲が流れたり陽射しが眩しかったり樹が揺れていたりしますね。あるいは車や人の往来。そのようなものひとつをとっても歌は出来ます。また、歌を作り始めて半年も続ければ上手くなってきます。どんどん上手くなります。そのとき、自分の歌を離れたところから眺めてみてください。そして上手くなることを警戒してください。上手くなりすぎると、歌が痩せてくるようにおもいます。

 

――「和歌の浦」に対して思うことをお願いします。

先日、和歌の浦へ行ってきました。暑い日でしたが、ひたすら海外沿いを歩きました。その日は人があまり居らず少し寂しくもありましたが、時空を超えた世界を想像できる場所とおもいました。幾つもの入江があり、海を大いに感じた一日でした。私もみなさんと一緒に、和歌の浦の歌を作りたいとおもいます。応募作がますます楽しみになってきました。

江戸雪審査員 プロフィール

「塔」短歌会の選者。現代歌人協会会員。五冊の歌集のほか、入門書も刊行しており多くの読者を持つ。海外経験を経て描かれる短歌世界は耽美的であり、かつ人間の奥底を覗こうとする視線が見え隠れする。分かりやすい口語体を使いつつ、情感豊かで先進的な作風は、性別や年齢層を問わず共感を得ている。