第三回 自由題詠 総評

 

 2017年7月1日~2018年2月末日まで募集していた「和歌の浦短歌賞」

多数の応募のなかから、和歌の浦大賞1首・和歌の浦題詠部門・優秀賞2首・佳作10首/自由詠部門・優秀賞2首・佳作10首が選ばれました。

 今回も年齢・性別を問わず、様々な方の、さまざまな想いが歌に込められ届きました。

 「自由題詠」は、のびのびと自由な表現で詠まれた歌が多く寄せられました。

日常の何気ない出来事を上手に拾って詠まれた歌、望まない状況にあっても、

凛として向かい風に佇んでいるような潔さのある歌。そんな短歌たちの中から、

審査員の先生方が素敵な作品を選考してくださいました。

 

 和歌の浦短歌賞への応募をきっかけに、短歌をつくる楽しさを感じていただければ幸いです。

 7月から始まる第四回の短歌賞へのご応募も、楽しみにしております。

 

 和歌の浦短歌賞は10首まで投稿可能ですので、10首のなかから良い歌が審査員の先生の目に留まるため受賞確率もあがります。

あきらめずに応募してくだされば、入賞も夢ではありませんので、第四回の短歌賞にも、ぜひご応募してみてください。

 

一般社団法人紀州文芸家振興協会「和歌の浦短歌賞」実行委員 

 

 

自由詠部門優秀賞(二首)

サイレント映画のやうな海に降る雨をみてゐるきみをみてゐた

― 久保茂樹(大阪府)

視線の二重構造が絶妙。青春への別れの歌として存在感抜群の一首。

藤原龍一郎審査員選評

無声映画の抑制された世界が、海に降る雨の遠さとつながる。下の句は「きみ」との鎖された世界を鮮やかに浮かび上がらせている。

 江戸雪審査員選評

夜の明けぬ前に摘むとう生海苔のひたひた黒き潮の香の立つ

― 加藤三知乎(福岡県)

生海苔の収穫時間について具体的に書いてあることで、下の句の体感がより神秘的で必然的なものとして感じられるようになった。力強い韻律も世界観に似合っている。

東直子審査員選評

自由詠部門佳作(十首)

カフェラテのハートをまずは吹き崩すあっさりと飲むための段取り

― 野上卓(東京都)

カフエラテに♡型を浮かべる店はよくあるが、作者のにべもない現実性に共感。

藤原龍一郎審査員選評

 

薄明けの犬の尿を避けながら始発目指してリュックを揺する

― 宮川潤(三重県)

野犬が道に多くいたころの昔を回想しているのだろう。いつもとは違う時間に道を歩いていることの違和感と緊張感をリアルに伝えている。心も急いで歩いている様子が結句で表現されているのだろう。

東直子審査員選評

*注)尿(イバリ)です。紀州文芸事務局

 

一番の花火が来るまであと5分牛乳色の星を見ている

― 岡田美幸(埼玉県)

花火大会が始まろうとしている。ぽっかり空いた5分。「牛乳色の星」が昂揚した気持ちのなかの空虚さをうまく表している。 

江戸雪審査員選評

 

もう話すことあまりなく ただ同じ空気を吸ってちがう息吐く

― 湯かずみ(兵庫県)

心の行き違いを下の句で巧みに表現し得ている。

藤原龍一郎審査員選評

 

『人体』を君と見ている日曜日素直なへぇが重なってゆく

― 柳橋 真紀子(千葉県)

「人体の不思議展」を見ているさなかの心理。まさに、私たちは自分の肉体の構造さえ何も知らない。「素直なへえが重なってゆく」という下句の表現が絶妙。

藤原龍一郎審査員選評

 

まっすぐに瞳をみつめ話すからしずかな嘘は海に沈んで

― 黒乃響子(東京都)

■言葉を交わさなくても視線だけで本質を交わしあったような一瞬。海の底に嘘が沈んでいくという情景が、清々しい。

東直子審査員選評

すこしの嘘が必要なときもある。でも今は、そんな嘘さえ海に沈ませ、純粋な思いだけを抱いているふたり。さりげない表現がいい。

江戸雪審査員選評

 

静けさも音楽だよと人の云ふ 耳を澄ませばやがて風の音

― 宇佐美陽子(東京都)

静けさの音、というものがあるのだと言われた。そうだろうかと耳を傾けてみると、ふだん気付かない音が聞こえる。たとえば風の音とか。

江戸雪審査員選評

 

夕凪の海を見つめる我といて子どもに返る歩行器の母

― ひぞのゆうこ(香川県)

夕凪の海に母と来ている。海に目線をやりながらいると解放感に包まれてきて足が不自由な母もはしゃいでいる。おだやかな幸福感を感じる歌。

江戸雪審査員選評

 

改札を長蛇の列がぬけゆきて駅舎に残る真夏のしじま

― 福島敏真(北海道)

大勢の人が一気におしよせ、そして去っていった。その後の人の気配がかすかに残る圧倒的な静けさ。夏の美しい一瞬。

東直子審査員選評

 

夏空の端をつまんでちよんちよんと洗濯ばさみに水着をとめる

― 清水良郎(愛知県)

夏空の下に水着を干した、ということが、青空そのものをつまむ、という把握で、実に楽しくなった。「ちょんちょん」に心弾みが伝わる。

東直子審査員選評